前回の投稿「広島 スタジアム問題について考える」について、多くの「いいね」や「リツイート」などの反響がありました。
さて現在、広島の新スタジアムについては市などにより検討が進められているとのことですが、時折テレビニュースや新聞などのメディアを通じて検討結果などが公表されています。
先日も「旧市民球場跡地」と「みなと公園」の比較としてその工事費の比較が大きく報じられましたが、その内容についての詳細は不明の状態のまま公表されています。
その比較検討資料について広島市の資料が手に入りましたので、特に「旧市民球場跡地」についての検討内容について建築的な観点から見てみました。
↓市の資料はこちら
仕様は吹田スタジアムをベースとしているとの記載です。直近のスタジアム事例であることとローコスト化の観点からできる限りシンプルなスタジアムとして吹田スタジアムを参考にしていると思われます。
①平面計画
一般的にはスクエア(矩形)形状とオーバル(楕円)形状がありますが、高さ基準(20Mと25M)を順守した場合については、同一断面でスタンド最上部で高さの揃うスクエア形状の方が納まりは良さそうです。平面的に東西方向にはまだスペースがあり、特に東側には平面的な拡張が可能と考えられます。
②断面計画
スタジアム断面は吹田スタジアムよりも味の素スタジアムに近いでしょうか。屋根も味の素スタジアムやフクダ電子アリーナに近いと思われます。なお「みなと公園」案についても吹田スタジアムの屋根断面を採用していません。下図は味の素スタジアムと広島市の検討案について同一スケールで重ね合わせたものです。
一般的に建築計画を行う場合、コストを抑える観点からは原則できる限り地下部分を造らないというセオリーがあります。地下水位の高い場所についてはなおさらです。地下掘削費・湧水処理費・残土処分費・土留費などに加え、防水費やフィールドの浮き防止のための費用などのコストがかかります。そのため、計画を工夫し地上部のコストを増やしてでも地下掘削を最小限に抑える工夫をしていることが多いのです。
平面計画でみた通り平面的には東側に拡張可能ですが、断面的にはこのままの断面形状では高さ方向の拡張できません。そのためには高さ方向の制約を外すための工夫が必須となります。
世界には多種多様なスタジアムが存在します。勿論そのままの形で実現できるものではありませんが、例えば
〇ベルリンのオリンピックスタジアム
柱をスタンド内に設置することで屋根の高さを非常に低く抑えています。柱が非常に細く日本でこれが可能なのかという点も留意しなければなりませんが、柱がスタンド内にありやや観戦しづらい席を許容することで改修による屋根の設置と低く抑えられた屋根という別のメリットを獲得しています。(少し例は違いますがマツダスタジアムなど野球場でも見切り席は存在しています。)
このスタジアムでサッカー観戦をしたことがありますが、非常にデザインの良いスタジアムだなと感じたと記憶しています。
〇ブリスベンのサンスコープスタジアム
断面図の確認がとれていないないため、正確には分かりませんが通常は屋根の上にある構造トラス梁を屋根の下に設置し屋根高さを抑えています。
スタンドからはピッチの端から端まで見えるように座席の配置設計を行いますが、下図のような断面イメージでの計画検討など高さを抑える屋根形状の検討は可能ではないかと考えます。
③掘削深さを抑えるために
広島市の資料の中に小さくですが「2万人規模であれば堀込は不要」と記載があります。2万人規模としてフクダ電子アリーナ(約2万人収容、高さ25m)を「旧市民球場跡地」に嵌め込んでみると、平面的には問題なく納まります。20m規制の部分は高さオーバーしますが、市が示す通りほぼほぼ2万人程度規模であれば掘り込みが必要ないということは言えそうです。
その(2万人~3万人収容の)間ではどうでしょうか?
25,000人~27,000人規模でかつ断面的な工夫を行っていけば、掘削深さは今の半分以下に収まっていくのではないかと考えます。
バックスタンド側について平面的に座席を拡張した案を考えてみます。できる限り座席数を確保するためにバックスタンド側のみ1層スタンド、上部席について一部柱が設置されることを許容します。ただし、屋根の観客席被覆率は100%とします。
バックスタンド上部に+αでまとまった席数が確保できそうです。また、北側ゴール裏にも少し座席確保の余地がありそうですのであわせて2000~3000席程度確保できるのではないでしょうか?スタンドの奥行きが浅くなれば屋根の断面高さもより抑えられます。相乗効果でコンパクトなスタジアムが可能であるように思えます。
④2敷地の比較として
「旧市民球場跡地」と「みなと公園」の同じ規模のスタジアムの計画を比較した場合、敷地の狭さ・都市部であることによる計画上・工事上の制約という点で「旧市民球場跡地」の方がコストがかかることが予想されます。ただし、「みなと公園」の方が建物支持地盤がより深い(地盤が悪い)という不利な点もあります。
このような観点からは、敷地条件が特殊な「旧市民球場跡地」に敷地に合わせた工夫を行っていないスタジアムを嵌め込み比較することは少し乱暴な比較と感じますし、まして「コストがこんなに大きく違う」ということを強調することには違和感を感じます。
「旧市民球場跡地」はスタジアム建設上、敷地条件が特殊でその制約も厳しいことが問題点と考えられます。一方、「みなと公園」は市などがその問題点である交通渋滞問題に対してその解決方法を探り、検討・対策案を作成しています。問題に対する解決を図ることができるわけですから、「旧市民球場跡地」についても同様にその問題点の解決に対して前向きになってもらいたいところです。
3/3にはサンフレッチェ広島が「旧市民球場跡地」での計画案を発表する予定ですが、この案にて「旧市民球場跡地」での問題点に対して、その解決策の方向性が示されることが期待されます。
最後に、蛇足ですが
高さ制限については、広島市の要綱における高さの基準を厳守するものとしていますが、あくまでこの高さの基準は広島市との協議事項であるということは留意する必要があると思います。広島市が策定した要綱である以上、「広島市がその基準を都合よく解釈した」というように捉えられることは行政としては避けたいという観点は理解できますが、例えば、スタジアムの屋根の吊支柱や吊線材(ワイヤ)についても建物の一部である壁や屋根と同じように取り扱わなければならないかなどということについては市内部で十分協議してもらいたいところです。