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広島 新スタジアム問題について考える

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「平和への想いを象徴」し、「原爆ドームと一体」となる「美しい」みんなのスタジアムを考えました。

俯瞰_西より
▲平和への想いを象徴する2つの白い羽(屋根)をもつスタジアム

資料館から
▲緑に浮かぶ白い羽(屋根)- 美しい背景となるスタジアム

スタジアムから
▲原爆ドームへの軸線が貫いて、繋がるスタジアム

昨年、サンフレッチェ広島(以下サンフレ)が3度目の優勝を果たし、FIFAクラブワールドカップ3位という素晴らしい結果を残しました。サンフレの一サポーターでとして、とても嬉しく誇らしく思います。

さて、そのようにサンフレが素晴らしい成績を残しているいま、「専用スタジアムを!」の声が強くなってきています。現在、建設候補地として「旧広島市民球場跡地(以下跡地)」と「広島みなと公園(以下みなと公園)」の2か所となって(※1)おり、広島市等は建設の決定も含めて、今年3月末までにその方向性を定めるとしています。

「みなと公園」有利との下馬評もありますが、「みなと公園」は輸送や交通渋滞などの大きな問題を抱えており、どちらの候補地も一長一短あることは間違いありません。

そのような中、私は跡地に新スタジアムをつくるべきだと考えています。

広島生まれで広島在住、サッカーを趣味とする建築の専門家として、一個人の私案として新スタジアムが跡地にあることをイメージをしてみました。

□平和のシンボルとして

オリンピックが平和の祭典と言われるように、スポーツと平和は近しい関係にあります。サッカーは激しいスポーツで試合は戦いにも例えられ、国と国の間では政治的な関係から非常に激しくぶつかり合うことさえあります。しかし、それは逆を言えばサッカーの戦いは平和であるからこそ行うことのできる平和を象徴する戦いなのです。サンフレのクリーンに戦うという姿勢を貫き、毎年のようにフェアプレー賞を受賞しながら成果を残していることは平和都市広島を象徴する存在として強力なアピールとなります。

広島の「復興」の象徴であるカープの本拠地であり、それを支えた跡地で、広島の「平和」の象徴として、サンフレが跡地で果たせる役割はとても大きいはずです。

新スタジアムはそんな平和への想いを象徴するものとして、また、近接する原爆ドームと一体として成すよう2つの白い羽をイメージした屋根をもつスタジアムをイメージしました。

跡地には「美観形成基準に適合するよう努めるもの」(※2)として景観要綱による高さの基準があります。これは原爆ドーム・平和公園の周辺地域として相応しい景観、とりわけ原爆ドームの背景となるエリアには配慮するという考え方によるものと考えられます。

跡地全体が一律25mであることや現存する建物は既にその高さ基準を超えていることに対しては疑問府がつきますが、相応しい景観形成を目指すその考え方は尊重されるものと思いますので、高さ基準を順守してイメージをつくりました。

原爆ドーム側から

平和公園から

跡地に計画した新スタジアムは原爆ドーム周辺や平和公園内の豊かな木々によりほぼ見えません。かつての市民球場も平和公園からは照明塔しか見えていませんでした。スタジアムの姿を見せないという観点からは正しい計画かもしれません。

しかし、姿を見せないという観点が果たして正解なのでしょうか?

スタジアムはフィールド+スタンド+屋根で構成されます。白くて軽快で美しい屋根だけが平和公園の豊かな緑の上部に浮かぶ。そんな風景があってもよいのではないかと思います。

資料館から

一律ではなく、原爆ドームに面した部分の最高高さを20mとして徐々に上げていく。徐々に上げていく勾配を近傍からの目線の勾配以下と抑えることで、原爆ドーム周辺からは木々に覆われていて見えないが、離れてみると・・・、平和公園からは美しい屋根だけ見える。

新スタジアムが平和公園や原爆ドームと一体となって平和のシンボルとして積極的に利用できるのではないかと思います。

□内向きを外向きに

私は約20年ほど広島を離れて生活していました。広島に戻ってきて改めて感じたことの一つとして、「内向きであること」があります。

広島では今も熱心に平和教育が行われていますが、広島から離れて暮らすと広島出身以外の方とのギャップを感じずにはいられません。まずもって、広島・長崎への原爆投下日時さえ答えられない人がたくさんいます(むしろわかる人の方が少ない印象です)。

広島では素晴らしい活動が多々行われているにもかかわらず、その情報発信は地元新聞や地元テレビ局のローカルニュース番組など広島地方のみへの発信が主であり、外向きの発信が限りなく少ないと感じます。例えば今年、8/6にマツダスタジアムで行われたピースナイター。これは国内とりわけ広島人向けのものであり、TV放送も全国放送は行われていません。

サンフレの森保監督はあらゆる場面で、サッカーの持つグローバルな力を平和発信に使うべきだということを強調しています。先のクラブワールドカップは約180カ国へ映像が配信されましたが、世界で最もメジャーなスポーツであるサッカーの持つグローバルな力を大いに利用すべきです。

原爆ドームに隣接する跡地。平和祈念式典が執り行われる平和公園の一角で世界で最も愛されるスポーツができることがあると思います。8/6は開幕前とはいえ欧州サッカーのオフシーズン中。チャリティーマッチの一つでも実施すれば、賛同する現役・元選手は多いのではないでしょうか。原爆ドームを望む地で、雨も太陽もしのげる屋根付スタンドからみんなで平和祈念式典に参列し、その延長で試合が行われる。すぐに実現はできなくとも、青少年世代やJリーグの現役・元選手によるエキジビジョンマッチから始めることも可能でしょう。

新スタジアムは平和祈念式典を補完する施設として、また、広島の内向きの発信を外向きに変えることができるコンテンツを提供する場として、大いに期待ができると思います。

2つの羽(屋根)の間から見える原爆ドーム。スタジアムを貫く原爆ドームへの軸線が、跡地と原爆ドームをつないでいく

□にぎわいをもたらす広場として

平成18年に行われた「現球場跡地利用に関する提案」と事業提案募集では複数のサッカースタジアムの提案が提出されましたが、スタジアムの提案はほとんど議論されることなく、落選となっています。結果としてまとまった報告書(※3)では「サッカースタジアム=閉鎖された空間⇒除外」という経緯が見て取れます。

一方、最近広島市HP上に発表された「旧市民球場跡地の空間づくりのイメージ」(※4)では屋根付イベント広場と芝生広場のイメージが提示されています。

スタジアムをつくるということは、
自然に
・天然芝の広場ができ、
・座れる屋根のついた観客席ができ、
・観客席の下には構造体ができあがっているスケルトン空間(構造躯体のみの空きスペース)ができ、
・飲食点・売店・トイレのあるコンコースができる

これは広島市の持つ旧市民球場跡地利用のビジョンと全く整合しているのです。

サッカースタジアムをつくるというのが「サッカーのためだけの巨大で閉鎖的な施設をつくる」という言葉に置き換わって解釈されているのではないかと思います。 新スタジアムは「屋根付きスタンドとコンコース(通路状広場)のある天然芝広場」であり、それがサッカー専用仕様に合わせて作られており、2週間に1度程度Jリーグの試合が行われる運用がされるということなんだと思います。

マツダスタジアムのコンコースがよくできていますが、コンコースの造り方で色々な使い方が可能でしょう。(飲食のイベントで雨が降ってどうにもならないなんてことは無くなります。)

Jリーグで使用するような整備された天然芝を体験できるイベントやみんなで天然芝の整備を手伝うなんてイベントも可能でしょう。(自分が整備した芝で、サンフレの選手が試合してたら、いいと思いませんか?)

こういった行為がスポーツを介した文化の醸成をなすのだと思います。

断面

(※3)で落選の最大の理由とされた南北を分断するという意見もありますが、スタジアムを断面的に捉えることができれば、動線を分断しない計画は可能です(コンコースレベルを2Fとし、1Fは開放)。大宮のNACK5スタジアムは1Fレベルを仮設的にコンコースとしていますが、1Fレベルは普段は開放、試合開催時は大部分を仮設的にコンコースとすればよいのです。

先に述べたようにマツダスタジアムのコンコースは非常に居心地のいい空間に仕上がっています。そういったよい先例が身近にあるのですから是非生かしたいところです。マツダスタジアムは野球開催時のみの利用ですが、繁華街に近い旧市民球場跡地に新スタジアムができれば、フィールドを利用しないでもコンコースを限定開放した使い方で街を取り込んだイベントが可能ではないでしょうか?

コンコースと売店を利用した街コン(スタジアムコン)、コンコースと観客席の一部を利用したフードフェスティバル、コンコースを利用したリレーイベントというのも面白そうです。

コンコースを広場ととらえれば、ハード・ソフトの両面で様々な仕掛けが可能となり、人の流れを生むものと思います。

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□まとめ

跡地に平和祈念の場を望む声、文化・芸術施設望む声、公園化を望む声、集客施設を望む声、観光施設を望む声など・・・。

これらがスタジアムと相いれないとは思いません。

跡地の利用はサッカーのためだけではダメです。しかし、安定した集客と活気を生み出すためには、サッカーを核とするのが一番だと思います。今、広島に必要なのは跡地から希望と活気と平和をもたらすことではないでしょうか。そして、その可能性と力を持ち得るサンフレという資源がすぐそこにあるのです。

休日のカープのホームゲームとなると赤いユニホームを着た人たちが広島駅周辺などたくさん見られます。これは広島の街の風景をつくっていて、それがアイデンティティとなり街に活気を生み出しています。

昨年のJリーグチャンピオンシップ決勝前後、残念ながら街中でサンフレのユニホーム姿の方はほとんど見受けられませんでした。跡地にスタジアムがあれば、強いサンフレが広島の新しい街の風景と活気を生み出します。だからまた、みんなが応援する。よい循環が生まれるのです。

誰かが言いました。「カープとサンフレは歴史が違う」。その通りだと思います。カープは戦後の広島を牽引しました。これからより成長が厳しくなる時代です。これからはカープとサンフレの両輪、赤だけでなく赤と紫の2色で広島の街と経済と文化と歴史を牽引していってほしいものです。

旧市民球場跡地は決して広くありません。ここでスタジアムを建設することによる苦労や困難も伴う部分はあると思います。

しかし、建設範囲は限られていても思考の範囲が敷地境界線に縛られる必要はありません。より広い範囲での施設・機能補完や経済効果、まちへの寄与などを考えること、平和・文化に対する目に見えないプライスレスな価値への貢献を考える必要があるのではないでしょうか。

問題の列挙による消去法ではなく、その場所の力と可能性、これからの広島のために必要なこと。

それらを考えたとき新スタジアムは跡地にあるべきだと思います。

注:本サイトのイメージは詳細な検討を行ったものではありません。旧市民球場跡地におけるスタジアムの一例のイメージを個人的に作成したものであり、実際の計画では十分は検討が必要となります。

参考資料

※1:広島に相応しいサッカースタジアムについて(提言)/平成26年12月/サッカースタジアム検討協議会

※2:景観法に基づく届出等に係る事前協議に関する取扱要綱/広島市

※3:現球場(広島市民球場)跡地利用の方向性について(報告)/平成18 年5 月/広島市民球場跡地利用検討会議

※4:旧市民球場跡地の空間づくりのイメージ/平成27年1月/広島市

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