最近耳にしませんか? スマートハウス。 スマートフォン、スマートIC(インターチェンジ)、スマートグリッド...。 なんだかスマート○○って多いですね。
スマートハウスはIT技術によりエネルギー使用の最適化を行う住宅。 具体的にはどんなものでしょうか?
■なぜ今、スマートハウス?
スマートハウスは1980年代に提唱された概念で、IT(情報化技術)により家電や機器を遠隔操作したり、最適化することでより利便性を高めようとするものでした。
そもそもは利便性の向上が主目的であったスマートハウスですが、よりエネルギー消費の抑制に主眼を置いたスマートハウスの技術発展により、徐々に注目を浴びてきました。
オフィスビル等の大規模建物や公共建物においては、環境へ配慮するということはもはや当たり前となっており、BEMS(Building Energy Management System)を備えた建物などにおいて、一定の効果を出し始めているのです。
エネルギー消費の14%は家庭部門で消費されています。あまり多くないのではという印象かもしれませんが、産業部門や運輸部門などは徐々に削減されているのにもかかわらず、家庭部門のエネルギー消費量は増加が著しい状況なのです※1。
そこでエネルギー消費とCO2排出量を抑えるために、家庭部門においても利便性を損なわず、エネルギー消費量を抑えたいという観点から様々な環境技術の開発がすすめられてきました。 東日本大震災をきっかけとした発電のあり方や電力の使い方、蓄え方について考える機会が増えたことも追い風となり、高い注目を集めるようになりました。
また、スマートフォンの広がりにより、ITによるインタラクティブな利便性が高まったことがHEMSに対する抵抗感をなくし、スマートハウスという言葉を受け入れやすくしたとも思われます。
■スマートハウスを実現する技術
スマートハウスを実現可能にするのはエネルギーを「創る」「使う」「蓄える」技術です。
・「創る」 創エネ 太陽光発電、燃料電池、コージェネレーション(コージェネ)、太陽熱温水器、 ソーラークーリングなど
・「使う」 省エネ エコキュート、地熱利用、全熱交換器、LED照明、輻射冷暖房、 外ブランド(ルーバー)、断熱ガラスなど
・「蓄える」 蓄エネ 蓄電池、EV(電気自動車)、蓄熱利用など
■最適化するってどういうこと?
HEMSによる最適化?難しく聞こえるかもしれません。
エネルギーを創る、使う、蓄える上において、効率が良いようにエネルギーの流れを制御するということです。
たとえば下図①のように、晴天時に太陽光発電により発電が行われている状況において、照明や家電製品などの消費電力が発電量を下回っている場合、余剰の電力を売電する。また、下図②のように、安価な夜間電力で蓄電を行っておいて、使用のピーク時に蓄電を利用するなど、様々な状況において効率的に制御します。
また、HEMSによってエネルギーの流れや使用状況を「見える化」することで、居住者が利用状況をリアルタイムに確認できたり、統計的に比較できたりします。 エネルギー利用の「見える化」は居住者の環境意識も高めるともいわれています。
■環境共生住宅
「環境共生住宅」とは、「地球温暖化防止等の地球環境保全を促進する観点から、地域の特性に応じ、エネルギー・資源・廃棄物等の面で適切な配慮がなされるとともに、周辺環境と調和し、健康で快適に生活できるよう工夫された住宅及び住環境」※2と定義されています。
スマートハウスはエネルギーの側面において「環境共生住宅」を目指した住宅の一つのあり方です。 環境と共生するとは、人が地球環境や周辺環境に調和し、共に生きること。エネルギー消費を抑えることと同時に、建物が建つ地域・敷地での周辺環境の調和することや居住者の健康や利便性・快適性を維持することも重要なのです。
最近では、省エネ・省資源といった環境負荷削減の側面と室内の快適性や景観への配慮といった環境品質・性能の側面を総合的に評価する制度(CASBEE(建築物総合環境性能評価システム))も導入されています。
■広島における「環境共生住宅」
広島は瀬戸内海式気候であるため、雨が少なく日照時間が長いことが特徴です。 他の地域と違うメリットを生かしたいですね。
また、夏季においては昼は海から夜は陸から風が吹くといわれています。(当然、敷地の条件によっては異なりますが)
太陽光や風の利用は、太陽光発電などのアクティブ利用だけでなく、パッシブ利用において有効となる可能性があります。 敷地の状況に相応しい、建築計画とエネルギー利用が必要ですね。
※1 資源エネルギー庁 エネルギー白書2013による
※2 国土交通省 住宅局 住宅局の取り組みによる
■ゼロエネハウスとは?
究極的な意味でのZEH(Zero Energy House)は、外部からエネルギーを得ることなく、住宅内で必要分のエネルギーを創り、蓄え、利用することとなります。
しかしながら、住宅規模では実際には不可能に近いと考えられます。そこでできる限りエネルギー消費を抑え、年間のエネルギー収支をトータルとしてゼロにする住宅、ネット・ゼロ・エネルギー・ハウスをZEHとして進められています。
自然エネルギーを活用してエネルギーを創出し、エネルギーのやり取りによって資源の枯渇やCO2排出、原発への依存度を抑えることになります。
■地域全体でエネルギーをやり取り?
住宅での究極のZEH(1住宅内でのエネルギーの自給自足)は、規模が小さすぎること、エネルギー創出量や利用量が安定化しないこと、創る時間と利用する時間のギャップを埋めるために不必要に大きな蓄電装置が必要なことなどにより現実的には難しいと考えられます。
しかし、多数の住宅や他の用途の建物などを含めた面的な広がりでエネルギーのやり取りを行う考え方があります。住宅の多数化による平均化・平準化によってエネルギーの創出量や利用量の安定、用途の異なる建物のエネルギー利用の時間的ギャップを利用したエネルギーの融通、様々なエネルギー(たとえば工場の熱エネルギーや地熱利用など大規模でのエネルギー創出など)の有効利用などが図られます。
規模が大きくなるため、社会全体の取り組みとして進めなければならないものですが、エネルギー収支の考え方としては1住宅で考えるより合理的だと思いませんか?
■さまざまな自然エネルギー
自然エネルギーの利用といえば・・・。何よりすぐに思い浮かぶのが太陽光発電でしょう。しかし、それ以外にも様々なエネルギーがあります。
太陽光発電:無料で利用可能なエネルギー源であり、他の自然エネルギーと比較して歴史が長いため、技術が確立され多くの実績があります。寿命は2~30年程度ですが、発電モジュールは日々性能が向上しています。
太陽熱利用:太陽エネルギーは、本来熱利用した方が効率的です。しかし、需要の大きい冬季に得られるエネルギーが少ないことなどからあまり利用は進んでいません。エコキュートやガス湯沸かし器などと接続することで補完した利用などが考えられます。
水力発電:水力発電というと大きなダムによる発電をイメージするかもしれませんが、最近ではマイクロ水力発電という小さな段差による小型の水力発電が広がってきています。水力発電はある程度の水量と落差のある水路や河川があれば安定的に発電が可能なため、これから期待できると考えられます。水利権の煩雑な問題はありますが徐々に緩和されている状況となっています。
地熱利用:地中熱は外気温に関係なくある程度一定に保たれています。この一定の地熱を利用して冷暖房の負荷を小さくする方法や安定した温度である井戸水を活用した空調や輻射などが可能です。
風力発電:風力発電は平均風速が大きく、安定した風環境にある場所であれば利用できる可能性があります。
■補助金と減税措置
スマートハウスを実現するための機器である太陽光発電システム、HEMS、燃料電池、蓄電池などの多くは購入する際に補助金が準備されています。
これらは経済産業省、資源エネルギー庁、国土交通省などの年度予算により決定されています。そのため、補助内容や金額などは毎年異なっているおり、その時その時に内容の確認が必要です。
政府の節電ポータルサイト setsuden.go.jp に政府の補助金一覧がまとまっています。
また、減税措置についても国土交通省などにより実施されています。
認定低酸素住宅についての住宅ローン減税借入限度額は、平成25年度は3,000万円となっていますが、26年度以降29年まで5,000万円として延長されることとなっています。
■エネルギー消費の観点が強調されすぎると
エネルギー消費を抑えることは、持続可能な社会としていくためには避けて通ることはできない状況です。
そのために、住宅規模での取り組みは今後ますます重要となっていくと考えられます。
しかしながら、エネルギー消費の抑制のみが唯一無二の目的とされると・・・。
素晴らしい眺望が得られるのにもかかわらず空調の負荷を抑えるために窓は最小限にします。なんて計画もあり得ます。
人間らしく豊かに暮らす空間であることと環境にやさしいことは相反しないのではないでしょうか。
居住者と敷地に相応しいデザインと機器のマッチングが重要ですね。